メイド イン フランチェスカ!

第五話【巨大マグロでスプラッタ!】

僕♂
●学○年生の少年にして、純ツッコミ派主人公。
洋風のお屋敷にお住まいの富豪のご子息で若干世間知らず。
名前が第四話の時点で未だに出てこない事を不審に感じている。
ビビリっ子だが、隠れた勇気はムゲンダイっ!

無限台 篤宗(むげんだい あつむね)♂
僕の住む館の給仕。源氏名はフランチェスカ。
男、巨体、筋肉、暑苦しい性格という激烈な4拍子にも関わらず、
自分はメイドであるという主張を決して曲げはしない図々しさ。
でもいいヤツなんですよ。ホント。
全身の皮膚の中では特に、ムネのアツさはムゲンダイっ!

無限台 地子(むげんだい ちいこ)♀
僕の住む館の給仕で、篤宗の妹。源氏名はチッチョリーナ。
まだまだ小さな年頃の(?)女の子だが、兄のおかげで割としっかり者。
源氏名で呼ぶと怒濤の蹴技が火を噴くので注意しましょう。
美女と野獣の兄妹愛はムゲンダイっ!

ボブ♀
1話以来出番のなかった、館の裏庭で飼っている大きな犬。
僕が生まれた頃から生きており、僕にとっては良き理解者。
貫禄に溢れる姐さんタイプで、近所の犬からの信頼も厚いらしい。
久々の出番なのに、最初と最後だけしか出てこない。不憫な。
歯と爪の切れ味の鋭さはムゲンダイっ!

ナレ♂♀
解説兼カメラマン。台詞の量が毎話とてつもない事になっている。
今回はいつもよりは少なめ。
場の盛り上げ役として多いに貢献するプロフェッショナルだが、
その時のテンションを後で振り返って凹む事もある一般ピープル。
華麗なるカメラさばきはムゲンダイっ!


キャラクター設定資料


↓配役表↓/♂1 ♀2 不問2






ボブ:よく来たね。
   この一帯を取り締まっているボブだ、よろしく。
   …嗚呼、女だが?
   …ふふっ、みんな そう言うが、わたしは気に入っているよ。
   ま、入っておくれ。
   散らかっててすまないね、適当にくつろいどくれ。
   おっと、そこの水たまりには気をつけなよ。
   うっかり踏むと、赤く染まっちまうから。
   …そうだ、話を始める前にひとつ。
   話の途中で、少年が一人ここを通ると思うが、それはこの屋敷のご子息さ。
   わたしの親友であり、兄弟であり、主人だ。
   粗相(そそう)のないようにね。
   …何故 主人が裏口から家に入るのか、だって?
   まぁ…事情をこれから話すと、夜も更けてしまうからね。
   その辺りはまたゆっくり、時間のある時に話すとしようじゃないか。
   さ、本題に…


僕(遠くで):うわぁぁぁぁああああっ!!?


ボブ:…あー、すまない…さっき言ったご子息だが、今日は通らないみたいだ。




地子(タイトルコール):『メイド イン フランチェスカ!
             第五話【巨大マグロでスプラッタ!】』




- 数分前 正面玄関 『 大 扉 』 -


僕:ハァ、ハァ…ハァ…


ナレ:小さな肩が上下する。
   全力ダッシュで帰ってきた汗だくの少年は、スッと大きな扉を見上げた。
   輪郭(りんかく)を伝った汗が、雫となって床を打つ。
   大扉。
   監視カメラで複数の角度から死角なく監視され、
   人の手ではとても動かす事のできない重量を誇る。
   さらに、迂闊(うかつ)にこの扉を手で触ろうものなら、
   父上特製ブービートラップが来訪者を容赦なく襲う。


僕M:いくら忍者好きだからって、自分の家を忍者屋敷にせんでも…。


ナレ:カメラの視線の中、待つ事5秒。


【SE:ゴゴゴ…(地響き)】


ナレ:扉がゆっくりと道を開く。
   汗を拭い、息をととのえて。
   少年はようやく。


僕:ただい…



- 1分前 僕家・玄関ロビー -



篤宗(遠くで):ぬおおおおお!食材の分際で猪口才(ちょこざい)な!!

地子(遠くで):ああっ、もう、おイタは駄目ですっ!何でこんなに元気ですかぁあっ!

篤宗(遠くで):ぬぅうーん!ぬぅうーんっ!!ぬぅ…しぶといっ、ぬぅううんっ!!

地子(遠くで):あ、兄様!そんなに振り回したら駄目ですっ!
       壊れちゃいますぅぅうっ!!


ナレ:早速いかがわしさMAX!!!
   あ、ちょっと奥さん、チャンネル変えないで!
   大丈夫ッスから、危なくないッスから!!


篤宗(段々近くへ):あっこら、逃げるでない!
         くそぅ、もっと奥まで入れねば逝かぬか…っ!!

地子(段々近くへ):ひわぁああっ、そっちはダメです、兄様ぁぁあっ!!

篤宗:これで…終わりどぅぬるぐうぉぉおおおおああああっ!!!


【SE:ズダンッ!(断裂音)】
【SE:ブシャー(液体の噴出音)】


篤宗:ふぅー、ふぅー、ふぅー…

地子:ハァ、ハァ…あ、兄様ァ…ビショビショですよぅ…


ナレ:液体まみれになりながら肩で息をする筋肉ダルマ。
   けだるい声とともに、それを潤んだ瞳で見つめる幼女。
   そして。


僕:ただい…うわぁぁぁぁああああっ!!?


ナレ:扉を開き、その現場を目撃してしまった少年…っ!


篤宗:ふぅー、ふぅー…おお、兄者!よく帰ったな。

地子:あ…おかえりなさいませ、です。

僕:え…ちょ…ナニやってんの…?


ナレ:そこで少年が目にしたものとはぁあっ!


篤宗:いやナニ、コヤツがとんでもない暴れん坊でな。

地子:うぅ…ロビーが生臭いです…イキが良すぎるですぅ…


ナレ:真赤に染まったロビーの中央…
   右手に大包丁、左手には未だに痙攣する巨大なマグロの胴体を抱き!
   頭には やはり巨大なマグロの頭をかぶって仁王立ちする!
   血まみれで!生臭い!ァ巨大メイドの姿であった!


僕:で、でかっ!!な、なななな、何!?何コレ!!?


ナレ:マグロ。


篤宗:マグロだ。

地子:マグロです。

僕:いやマグロって大きさじゃないし!


ナレ:5メートル。


篤宗:立派なマグロだ。

地子:立派です。

僕:立派すぎるよ!!

篤宗:これでやっと調理に入れるというものだな。

地子:その前に、この鮮血のロビーを何とかしなくちゃダメです、兄様。

僕:いや、その前に調理は厨房でやろうよ!!
  帰ったら巨大マグロでスプラッタってどうなの!?ねぇ!!

篤宗:おお、『 帰ったら 巨大マグロで スプラッタ 』。
   見事な川柳だぞ、兄者!

僕:違うわ!!

地子:うー、にほひが、にほひがぁ〜…兄様、窓を開けるです〜!


ナレ:跪き(ひざまずき)、ぞうきんで方々(ほうぼう)に散った魚の血を拭いながら、
   泣きそうな声を上げる。


僕:ハァ…あの、とりあえず何があったんです…?


ナレ:状況が飲み込めない少年に、包丁をふところにしまい、
   窓を開けながら、男が爽やかに答える。


篤宗:飯の肴(さかな)なのだ。

僕:…は?

篤宗:先日父君が土産に生きたまま持ち帰った、
   新鮮な巨大マグロが今日のメインディッシュなのだ。

僕:…は、はぁ。

僕M:何やってんの父上…。

僕:…で、それが何で厨房じゃなくてこんなトコロでさばいてるんですか。

地子:はぁっ!?兄様、窓に血がぁ!先に手を拭くですっ!!


ナレ:湿った布が180km/hで飛んだ。


【SE:べしょっ(雑巾が張り付く音)】


篤宗(布越しの声):ミブマ、バヒモワムゥモウベババホム

僕:…ぞうきんは取って喋ってください。

篤宗:むぶぁっ!…実は、最初は厨房でさばこうとしていたのだが、
   あろうことかコヤツ、まな板の上で暴れ出し、
   挙句の果てには廊下をビチビチと自力で跳ねてここまでやってきたのだ。

僕:な、なんて非常識な…っ!

篤宗:まったくだ。ハハハハこやつめ。


ナレ:そう言ってマグロの胴体を軽く小突くと、
   またビチビチと動きだす。


僕:まだ生きてるし。う…なんか気持ち悪くなってきた…とにかく事情は分かりました。
  他の窓は僕が開けときますから、それ持って早く厨房に戻ってください…。

篤宗:おお兄者、何ともかたじけない。では、すまないが後は頼んだぞ、チッチョリーナ。

地子:ちぃこですっ!ンモォー、さっさと行きやがるがいいです、馬鹿兄様っ!!

篤宗:では、失礼する!

僕:…あ、ちょっと待ってください、無限台さん!

篤宗:ぬぉう!?何だ兄者ぁ!!


ナレ:急な呼びかけにより止まった巨体の右手に掴まれた栄光は、
   慣性の法則にしたがって、停止したその手からヌルリとすべり放たれ、


【SE:べちゃっ。(床に生ものが落ちる音)】

地子:あ、ああーっ!!?


ナレ:少女がキレイにした床を、再び生臭い赤に染めるのであった!!


地子:…せ、せっかく…せっかくキレイにしたのに…!
   うわぁぁああん負けるもんかですぅぅうううううう!!


【SE:ズババババババ(摩擦音)】


僕:すみません、急に呼び止めて…あの、僕の名前って、知ってます…よね?

篤宗:ああ、もちろんだとも!己が仕える御方の名を、知らぬ訳がなかろう!

僕:あ…あの、言ってもらってもいい…ですか?

地子:ハッ!?


ナレ:ロビーに落とされた栄光の烙印(らくいん)を必死に消していた少女は、
   少年の声にバッと顔を上げた。


篤宗:ああ、

地子:兄様っ!!


ナレ:会話をさえぎり ロビーに響き渡る声。


篤宗:何だチッチョリーナ、今は話を…

地子:心得ているです。

篤宗:なら急に大声を……ハッ!?


ナレ:地子のまなざし。
   そこに含まれた、警告。


地子:……心得て、いるです。

篤宗:…心得た。

僕:…?あ、あの…

篤宗:ああ、すまぬ!お名前だったな、兄者様!

僕:え、えぇ…『様』?

篤宗:ア=ニジャ様。

僕:僕ナニ人だよ!!…アレ?何かこの台詞 デジャヴ…
  って、そうじゃなくてマジメに答えてくださいよっ!!

篤宗:否、俺にとって兄者という存在は、まさに兄者と崇(あが)める存在なのだぞ!
   そもそも兄者という言葉は、
   我らの部族では敬意と憧憬(しょうけい)の念を表す呼称(こしょう)で…


ナレ:ティウンティウン。
   少年の中で、あまりよくない音がした。


僕:……もういいですよ。

篤宗:兄者という存在があったからこそ今の俺という存在が……ぬ?

僕:そうやって、ふざけて!!僕のこと馬鹿にしてるんですか!?
  あっ、そうか、本当は知らないんですよね、僕の名前。
  それとも覚えてないとかですか?
  仕える人の名前も知らないなんて、
  全国どこのお屋敷を探してもそんなメイドさん いませんよ!


ナレ:最近は主人の名前を覚えていないメイドの方が多いが。


僕:ちょっとでも期待した僕が馬鹿……ッッ!!

篤宗:兄者…。


ナレ:少年の瞳からボロッと零れ落ちた大きなしずくを、
   すかさず篤宗(あつむね)の大きな指が拭う。


僕:……。

篤宗:泣くな…兄者。

僕:…そっ、そんな優しさで、もう騙されませんからっ!
  無限台さんなんか、大っ嫌いだ!!!

篤宗:ぬぁ…!


ナレ:少年は階段へと駆けていった。


【SE:ヌルン(滑る音)】
【SE:ドベシャア(転ぶ音)】

僕:ゥベッ!?


ナレ:が、まぐろの尾ヒレで滑った。


篤宗:あ、兄者!大丈夫か!!

僕:……。

篤宗:う……


ナレ:が、キッとメイドを睨んだ後、単身すぐに立ち上がると、
   今度は力なく、歩いて階段へと向かった。
   巨体のヒザが がくんと折れて、オーアールゼットを作り上げた。


篤宗:…兄者…。

地子:……兄様、よくガマンを…

篤宗:う…うぅ…うぅぅあ兄者ぁあああああああああっっ!!

地子:…よしよし、です…。

篤宗:兄者ぁ、兄者ぁ、ぁ、ぁに、兄者ぁぁぁぁぁああ!!

地子:よしよし…

篤宗:うっ、うっ…チッチョリ

地子:ちぃこですっ!!


ナレ:容赦のない かかと落としが大きな頭にめり込んだ。



- 次回予告 -

ボブ:と、まぁこの街での大まかなルールは大体こんなところさ。
   あとは自分なりに考えて、うまくおやりよ。
   …おや、もうこんな時間か…おてんと様もせっかちだ。
   今度はゆっくりと血でも飲みながら世間話のひとつもしようじゃないか。
   そうだ、その時にはわたしの親友のことや主人のこと…
   それから、やたらデカくて 暑苦しくて 鬱陶しい限りだが、
   一途で誰よりも主人想いの メイドの話もしてやろう。
   じゃあ、またね。暗いから車には気をつけて帰んなよ。
   次回、『メイド イン フランチェスカ!第六話【愛という名のツッコミを!】』
   今宵のわたしは血に餓えておるぞ!…なんて、な。ふふっ…









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