ニワトリの恩返し




男♂:関西弁のジジイ。ツッコミの切れがよくジジイ感はない。
おけい♀:ハリシャと兼役。見目麗しい娘だが、なんか足が短い。
ハリシャ♀:男の妻。どこかに出かけている。


↓配役表↓/♂1 ♀1






おけい:コンコン、コンコン。

男:はい、どちら様で?

おけい:あの時助けて頂いた…

男:お、これ恩返しに来た鶴やろ!

おけい:ニワトリです。

男:ニワトリィ!?

おけい:ニワトリです。

男:ニワトリィ!!?

おけい:あがってもよろしいでしょうか?

男:はぁ、まぁどうぞ。

おけい:あ、あがると言っても、カラッとパリパリな方ではないので

男:分かる!言わんでも分かる!

おけい:じゃお邪魔します。

男:え、て言うか君それ、正体バラして良かったん?

おけい:……ハッ!!

男:鶴の恩返しやと、身バレしたら飛んでってしまうんやなかった?

おけい:…バレてしまっては仕方ありません。

男:君が自分で言うたんやん。

おけい:お別れです。(羽ばたき開始)

男:いや展開早いな、待て待て…って飛べへん!がんばって飛ぼうとしてるけど!そうやん君、ニワトリやから!!飛べへん!!

(しばしの間、おけいは羽ばたき、男はこらえ気味に笑う)

おけい:ハァ…ハァ…すみ、ません、水を、一杯、頂け、ますか?

男:そりゃ、あれだけ頑張ればそうなるわ…はいどうぞ。

おけい:あっ、出汁をとるためじゃ、ないです、ゲホッ、ゲホッ

男:もう分かったから早よ飲め!芸人魂のかたまりか。台詞ごとにボケんと死ぬんかお前は。

おけい:…ハァ、ありがとうございます。助かりました。ところで私は旅の者。道に迷ってしまい、一晩泊めて頂け

男:(遮って)え、今から!?今からやり直すの!?

おけい:私は旅の者。道に迷ってしまい

男:(遮って)分かった分かった、泊まっていきなさい。

おけい:ありがとうございます。

男:外寒いしな、まぁゆっくりして。そこに囲炉裏(いろり)あるから早うお入り。

おけい:ありがとうございます。

男:あ、おなかすいてる?何か作るよ。リクエストある?

おけい:あっ、ではチキンカレーを。

男:……いや、言いたいこと色々あるけど、まぁええわ。ゆっくりして待っててください。

おけい:何かお手伝いしましょうか?

男:いや、大丈夫!座っとってくれ!

おけい:でも…

男:大丈夫!材料は心配ないから!

おけい:えっ、材料?

男:ごめん、気にせんとって。ちょっと流れで勘違いしただけやから。な、座っとって?

おけい:あ、はい。

男:あ、そや、先にお風呂入ってきたらええわ。さっき沸いたとこやから。

おけい:……

男:いや違うからね!?出汁を取りたいわけではないからね!?

おけい:あっ…すみません、いま寝てました…

男:あ、そう!良かった!ごめんな大きな声出して。疲れてるんやな、先に寝るか?ごはんは起きてから食べたらええわ。

おけい:すみません、そうさせてください。

男:ほな、はい、おふとんこれ使て。

おけい:ありがとうございます。ああ、お布団あったかい。まるで両親の腕の中にいるような…

男:一応断っておくけどな?羽毛ぶとんに使われてるのは、ガチョウやアヒルの毛やからな?

おけい:物知りなんですね、素敵です。

男:アカン、前情報のせいでメチャクチャ深読みしてまう…

おけい:私、両親を早くに亡くして、身寄りがないんです。あなたのような優しいお方と暮らせたら、きっと幸せなんでしょうね…スヤ。

男:分かりやすい寝落ちタイミングやなおい。

おけい:スヤピッピ。

男:やかましいわ。まぁ、僕ももうジジイやしな、子供も授からんかったし。君みたいな子がうちの子になってくれたら婆さまも喜ぶやろ。もし君が住みやすいようなら、ずっとおったらええよ。

おけい:本当ですか!

男:いや起きとんのかい。さっきのスヤピッピなんやってん。

おけい:うれしいです…おやすみなさい。

男:はい、おやすみ。――そして翌朝。

おけい:コケコッコーーーー!!

男:ボロが出るのが早い!!もうちょい正体を隠す努力をしてくれんか!!

おけい:あっ、おはようございます!

男:おはよう。元気になったみたいやな。

おけい:はい、おかげさまで。カレーもすごくおいしかったです。

男:あぁ、それは…何より…

おけい:あなた様は元気がありませんね?

男:諸事情でちょっと気持ちが複雑なんやわ。いや、君がええんやったら ええねんけど。

おけい:あ、すみません、ちょっとお部屋をお借りしたいんですが…

男:あぁ、機織り部屋(はたおりべや)ならあっちの

おけい:いえ、台所をお借りしたいのですが。

男:台所?

おけい:英語で言うと『チッキン』ですね!

男:『キッチン』や『キッチン』!お前わざと言うてるやろ!

おけい:物知りなんですね!

男:言うほどか。キッチンくらい今日日(きょうび)誰でも知っとるわ。で、台所で何するん。

おけい:カレーのお礼も兼ねて、私、お昼ごはんを作ろうかと思いまして。

男:あぁ、嬉しいね。ほな冷蔵庫の中身、何でも使ってええよ。

おけい:あっ、ひとつお願いが…私がごはんを作る間は台所を覗かないでください。

男:おお、そこはちゃんと準拠(じゅんきょ)するんやな。

おけい:それでは失礼して、ウィーン。

男:自動ドア!?うちのキッチン自動ドア!?そうか、忘れとったな、自動ドアにしたんやったっけな、そうかぁ…

おけい:ふっ…んっ…!

男:…え、何をいきんでんの。

おけい:ふんっ…ゴトッ。

男:ゴトッて何、えっ何してんの?

おけい:コンコン、コパァ。

男:待て待て待て!

おけい:ウィーン。

男:あっ、そうや、自動ドアやった。

おけい:あっ…覗かないでと言ったのに、覗いてしまったんですね…

男:ニワトリの姿で喋るのシュールやな!

おけい:エッチ。

男:ニワトリで欲情せぇと!?

おけい:エロジジイ。

男:わざわざ言い直すな。いや違う、そんなんどうでもええねん!あのな、さすがに自分で産んだ卵で料理するのはやめとかんか!?

おけい:えっ、してないです。

男:嘘つけ、さっき『ふんっ』ていきんで『ゴトッ』て言うてたやないか。

おけい:あっ、キャベツがなかなか切れなくて。この姿だと非力なので。

男:いやそれはもう人のままでやれ。何でわざわざニワトリになったんや。

おけい:MPがなくなってしまって。

男:MP!あ、そういう世界観なんやな!分かった、それはええわ。ほなコンコンコパァは何やねん。

おけい:包丁だとラチが明かないので、くちばしでやったらうまく割れた音ですね。

男:君のくちばしは何や、鉄か何かでできてんのか!?すごいなくちばし!

おけい:姿を見られてしまっては、もうここには居られません。

男:まぁそれはな、僕が覗いてしまったのが悪いからな。

おけい:三日前の夜に命を助けて頂いた恩返しに来ましたが、お別れです。

男:うん…ちょ、ちょ、ちょっとごめん、最後にひとつだけええかな?

おけい:あ、はい?

男:僕、ニワトリの命を助けた覚えがまったくないんやけど。

おけい:えっ?

男:何日か前に鶴は助けたけど、ニワトリは知らんのよ。

おけい:そ、そんな…!

男:それ、ほんまに僕やった?

おけい:夜でしたし、鳥目なもので…

男:えぇ…なら何を頼りに僕やと思ったん。

おけい:においですね。

男:におい!?ニワトリってにおい分かるの!?

おけい:けっこう分かりますね。

男:あっそう。え、ちなみにどんなにおいやったん?

おけい:チキンカレーの…

男:君うちの晩飯がチキンカレーと知ってて来たん!?

おけい:鶏肉の味わいが持つ求心力には勝てませんね…ウヘヘ…

男:こわっ!!君よくそんな、おぞましいことをサラッと言うな。まぁでも、カレーなんか毎日どこかのご家庭には出てくるやろうし、やっぱり僕ではないんちゃうか?

おけい:そうなんでしょうか…においは間違いないんですが…

男:におい…においなぁ…

ハリシャ:ただいま帰りましたよ。アナタ、誰と話してるの?

男:おお、おかえりハリシャ。聞いてくれ、喋るニワトリがな…

ハリシャ:あら、この子…私が山ごもりの間に罠から助けたニワトリじゃないかしら?

男:ほあー!!?

ハリシャ:どうしたの、素っ頓狂な声出して。

男:なるほどな、ハリシャが恩人やったんか。…あっ、おい!ニワトリ!どこいくんや!おーい!

ハリシャ:あらあら、出ていっちゃったわね。

男:まぁ姿を見てしもうたからな、しゃーないわ。またどこかで会えるとええな…

おけい:コンコン、コンコン、私は旅の者。

男:いや、やり直そうとすなァ!!









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